日記473

・ もうちょうど 4 ヶ月ぐらいになるんですかね、パリに来て。それで、日本にいた頃に抱えていた行き詰まり感みたいなものは、ほぐれてきたなって思うようなところがあります。別に、スキルとか知識として何かをすごく得たとか、そういうことではないと思うんですけど。

・ というよりかはやっぱり、海外に出てみて、例えば英語で授業を受けるとか友達とコミュニケーションするっていう経験を通じて、自己肯定感じゃないんですけど、自分でもこう何となくやれるのかなみたいな、そういう気持ちの面で広がりが出てきたなっていうことが一つあります。

・あとはこの間、やっぱり時間があったってことだと思うんです。普通に仕事をしてる時よりかは時間に余裕があって、それは別に休暇がすごい多いということではなくて、小さい積み重ねの時間です。1日の中で、可処分時間みたいなものが 2 時間とか 3 時間とか出てきたっていうことなんです。

・ 例えば夜、ちょっと夜更かしをして、それで翌日起きるのが数十分遅くなったとしても、別に授業には間に合います、みたいな。まあそういう心の余裕があって、その中で
すげーYouTube の動画見る機会が増えたんですよ。

・ で、YouTube の動画見てどうするんだって思うかもしれないけど、まず、ニュースの動画をすごくよく見るようになったんです。まあ、それはヨーロッパのニュースもそうだけど、でも、日本のニュースについて知る機会がすごく多くなったということが一つあります。今、ニュースという意味では、日本の政局に関しては転換点に来てるんじゃないか、っていうのが一つ仮説としてあるんですよ

・ それはこの自民党、政府与党の信頼を揺るがすような裏金疑惑が出てきているっていうだけではなくて、これが大きなうねりになってるっていうことがポイントです。資金管理だけの話ではなくて、政府与党に対する不信感っていうものが如実に出てきてるんだなって思うんです

・ それは岸田内閣の支持率がものすごく低いっていうところから見てわかると思うんですけど、これは単純に内閣の支持率が低いっていうよりかは、岸田内閣がやってる政策自体はすごくいいものが多いのに、これだけ支持率が低いっていうところの裏というか奥行きを見てみると、やっぱり社会的に大きなうねりとして、政府与党に対する不信感みたいなものが出てきてることの表れなんだろうなと思うんです

・ で、ここ半年とか 1 年ぐらいの話をすると、YouTube の動画に政治家の露出がかなり増えたっていうことが言えると思うんです。今回官房長官になった林芳正さんだって、1 年足らず前だと思うけど、リハックに出ていたりとか。自民党なら小林史明議員がかなりいろんな番組に出てますし、立憲民主党なら泉代表から逢坂議員、小西議員、(ハッピー)米山議員まで見かけますし、国民民主の玉木代表も自身のチャンネルやってますよね。N国党の立花代表は当然として。維新なら藤田さん

YouTube の中でニュースメディアというか、なんて言うんだろうな、政治のリアルなところを政治家本人を招いて伝えるっていう、そういうチャンネルがかなりこう、ムーブメントとして増えてきた気がするんです。これってもちろん、政治家にもメリットありますからね

・ それもあって、かなりきちんと政治のニュースっていうのを、なぜか追うようになってるっていうのが自分の変化っちゃ変化なんです。で、それと同時にもう少しだけYouTube の話をすると、政治だけでなくビジネスのこともかなりよく見るようになりました。特に日本企業のビジネスに関してはかなりよく見るようになっています

・ 例えばトヨタがこの先どういう戦略を描いていくのかとか、日本のテレビ局というのはどういう変遷を歩んできたのかとか、リクルートという会社はそもそも何をしているのかとか、とにかく動画を見るようになってます。これは可処分時間が増えたことによって可能になったことです

・やっぱり、自分がこの先どう働いていくのかっていうことに対して、自分なりに真剣に向き合おうとしてるんだと思うんです。それで、ビジネスパーソン向けの番組をかなりよく見るようになって、転職についても考える中で、自分のパースペクティブというか、そういうものが広がってる実感を持っています

・ 政治もビジネスも、これまで全然興味を持ってこなかったんですよ。理由を考えてみると、ここに共通するのは「不信感」です。

・ 日本の企業に対する不信感ってのはものすごく強く自分の中にあって、それが20 代の間、ずっと残り続けていたんだろうなと思うんです。まずは日本の企業って、変革がすごく遅くて、世界の経済から取り残されてきたっていう実態があると思います。実際、「世界の時価総額ランキング」みたいなのもよく見ますけど、日本の中では1位のトヨタも世界では十何位に転落してるとか、そういうデータを見るたびに日本企業のことを「フォローしててもしょうがないな」みたいな、そういう実感がなんとなくあったと思います。別に海外の企業のことも詳しいわけではないけど

・ で、本来であればこれまで会社に勤める中で、もっと日本の実体経済とか企業には興味があってしかるべきだったんですけど、なんでかそういう風には興味が向いていかなかったんです

・これについては、自分の人生についてあんまり真面目に考えてなかったからっていうのはあると思いますね。自分の働き方一つとっても、今の会社で一生生きていくんだったら、必ずしも自分の興味の幅って広げる必要がなくて、それよりかはこの会社の中でどういう知見を蓄えていくかみたいな、そういうことを重視してきたのかもしれない

・ それは今勤めている会社に対する信頼っていうのがかなり厚くあったことの裏返しだと思うんです。この会社で働いていれば、すごく重要な知見を得られるとか、そういうつもりでいたと思う。で、実際にここで働いてないと得られない知見とかスキルっていうのはかなり多くあると思うし、かつ、それが社会的にも有益というか、労働市場に自分が足を踏み出してみても価値のある情報や知識を得られるっていう側面はあります

・ ただ一方で、やっぱり自分が会社に甘えていたという側面もあると思っていて、つまり、会社に属して仕事をしていれば、それだけで何か自分の中で自分のこうキャリア形成に役立つような知識とか情報とかが入ってくるのではないだろうかって、そういう甘えがあったと思います。

・ 正直、この 6 年とか 7 年働いてみて分かったことは、どんなにすばらしい会社でも、当然ながらその組織に所属しているだけでは、本当に重要な、働いていて良かったなと思えるような大事なこと、それは知識なのかスキルなのか情報なのかわからないけど、そういうものが身についていくわけではないっていうことです。繰り返しですが、今の会社に対する信頼ってまだ自分の中にあって、特にコンプライアンスとかガバナンスの意味ではかなり信頼しています

・ でもやっぱり、どこの会社にいてもそうだと思いますけど、会社にいるだけで何か重要な知見とかスキルとか知識とか、そういうものが身についていくと思ったら大間違いだなっていうことに 6 年 7 年働いてみて、うすうす気がついたっていうことに、パリに来て気がついたんですね

・ それで自分なりに今、情報収集というか、いろいろそういうものを改めてしてるっていう、そういうフェーズだと思います

・ じゃあそれがじゃあパリ政治学院/フランスに来てみたこと、日本を出てみたこととどう関係しているかというと、それは一つはやっぱり自分の国のことをちゃんと説明しなきゃいけないんだなっていうことですよね。まあどうせ、そんなにうまく英語でしゃべれないわけだから、だったら自分の国のことだけでもちゃんと話せるようになっておきたいなと。

・ ぼく自身がEU議会とかアメリカとかインドのことをうまく説明できないのは、まあしょうがない。それは英語の能力もあまりないからしょうがないと言い訳がつくんだけど、せめて日本のことだけはちゃんと説明できた方がいいよね。っていうのがちゃんと自分の中に芽生えてきたんだと思うんです

・ 今後、いろんなインターナショナルな議論をしていくときに、それが一つの参照軸になると思うんです。日本についてきちんと語れるようになること、例えば日本の政治の制度であるとか、日本のビジネスの仕組みであるとかをちゃんと知ることが、日本以外のことを知る際の重要なレファレンスになるんです

・ ヨーロッパの政治のことも、基本概念や大まかな歴史なんかについては割と授業で勉強したんだけど、そこから一歩踏み込んで、もう少し個別具体的な話ってなると、まだ全然できないんです。で、それは多分日本の政治制度のことをよく理解してないからなんじゃないかなと思うんですね

・ 例えば、選挙制度のことも、ちょっと今からちゃんと調べなきゃいけないんだけど、小選挙区制が今の政府与党にどう有利に働いているのかとか、かつてあった中選挙区制はどうしてなくなったのかとか、比例代表の仕組みとかをちゃんと日本語で理解してないと、海外の政治に関する議論も自分の中ではぐらついてしまって、ここからもう一歩一段深めていくことってできないんですね

・ ちょっと脇道にそれますけど、この概念理解というものをを英語とかフランス語でしなくていいのかっていう議論はあり得ると思うんです。ここに関しては正直できたらかっこいいし、いいなと思うんだけど、もう使えるものを使うしかないかなっていう感覚も正直あって、あんまり悠長なこと言ってられないので、まずは日本語で概念理解をして、それを英語に落とし込んでいくっていう作業をやるのが一番早いんじゃないかなと思いますね

・ なので一旦、新しい概念を英語で理解しようっていうのはちょっと今は諦めつつありますね。それがいいか悪いか、よくわからない。でもしょうがない。もうやるしかないから、早いなら日本語でやった方がいいのかもしれない

・ ということで、やんなきゃいけないこと、つまり概念理解しなきゃいけない分野が頭の中で山積みになってきてます。ざっくり言って政治とビジネス、これを両方、もう 1 回やらなきゃいけないなと思ってます。

・ 政治の方は先ほど書いた、選挙の制度のところをもう少し理解しなきゃいけないのと、あとは政治の現代史みたいなところをやっていかなきゃいけない。大きく言うと、小泉改革の辺りからさかのぼって振り返りたい

・ これちょっと書いておこうと思ったんですけど、自分が今まで生きてきた30 年間が一体どういう時代だったのかっていうのを、もう 1 回、政治とビジネスの観点から捉え直す必要があると思うんです。1987 年か 8 年か忘れたけど、リクルート事件というものがあり、そこから改正政治資金規正法ってものができてきて、一応クリーンな政治みたいなものをやろうとした時代があったっていうところの話とか、あとは 2009 年に民主党に政権が交代した時の話とか、そういうものをもう 1 回さらっていかないといけない気がするんですね。

・自分が生きてきた時代っていうのは、まさに日本が停滞/低迷し続けてきた時間であって、その時代を自分は生き続けてきているわけで、そこから目を離しちゃいけないと思うんですね。で、それはもちろん、政治がどうだったかっていうこともあるし、あとはビジネスですよね。企業活動がどうだったかっていうのがあって

・ 上に書いたことをもう一度繰り返しますけど、自分自身、日本の政治とか日本のビジネスみたいなものに対して強い不信感を抱き続けてきました。それ自体が政治やビジネスに関する無知を形成してきたなっていう、そういう直感があるんです。

・ 思い返してみれば、この 30 年間、日本企業というのは、内部留保っていう形ですごく利益を積み上げていたのかもしれないが、一方で国際的な競争力は落ちてきたし、GAFA みたいなもの、つまり世界中の人から利用されるような大きなプラットフォームを作るということには失敗し続けてきました、と

・ それはもちろん、企業の競争力だけじゃなくて、政治や法的なルールとか、まあそういうものももちろん関連してると思うんだけど、とにかくそういう、これまでになかった価値を創造するような営みに、日本という国として失敗し続けてきたっていう実績がまずあります

・ もう一つ大きいのは、やっぱり企業の(業績低迷とも関係して)不誠実な行為が明るみに出てきた時代だったとも思います。例えば産地の偽装であるとか、賞味期限偽装とか、細かいかもしれないけどそういうものって、ぼくが小さい頃に集中して出てきたと思うんです。そういうものが出てくると、大企業だからとか何だとかっていう理由で企業のことを信じちゃいけないっていう、そういう直感みたいなものが培われてしまったんだと思います

・少し見方を変えれば、ホリエモンのフジテレビの買収とかがうまくいかなかったこととか、Winny金子勇さんが捕まっちゃったっていうこととかももう 1 回ちゃんと考え直さなきゃいけなくて、そういう社会の成長の原動力となるようなものの芽を摘んできたっていうのが実態としてはあるんだと思います

・それが良い悪いっていうことではなくて、そういう事態を通じて、日本の社会であるとか経済とか政治っていうものを信じなくなり、それが自分自身の無知に直結しているんだろうなと思います。なのでもう少し、自分が生きながらにして見過ごしてきたこの時代の経済/政治について深く知りましょう、というのが最近の目標です。

・ もしかしたら、自分がこうして持っている不信感の根源みたいなものに関して、そういうものをこの先この社会に残していっちゃいけないのかもしれないとも思います。そういうものを排除/削減するみたいな方法があるならそれを知りたいのかもしれないですね。

・最後に、やっぱり、自分が仕事とかビジネスとかをしていく上で、日本社会っていうものをある種、俯瞰して捉える力、少し抽象的に捉える力っていうのが、もしかしたら大事な要素になっていくのかもしれないと思っている、ような気がします