・小林の主張を受けて、大澤はまとめに入ります。小林の主張を繰り返している部分を除くと、まず、大澤が言明しているのは、人間的な意味というのものが危険だということ。資本主義を否定しようとして走った、共産主義やファシズムを挙げます。
・そのうえで、市場ではスタティックな均衡が成り立たず、均衡は新規参入者やイノベーションを受けて常に崩れ、発散し、次の均衡点へと収束する、という表現を使うことにより、「資本主義はディコンストラクトそのものである」という小林の主張を補強します。このダイナミズムこそが資本主義の本来の姿であり、ポスト構造主義に対応すると主張します。
・つまり、資本主義は、「壊すことが秩序だ」という方法だ、とまとめます。秩序の崩壊を食い止める、「クッションの綴じ目」として機能するはずの『意味』を、空虚なものにしてしまう。
・その上で、大澤は、ヴェーバーやマルクスを挙げながら、資本主義を宗教と似通った社会現象であると位置づけ、そこを考えることによって、資本主義に対抗する手がかりを見出そうとします。
・ということで、本書ではほかにも資本主義に言及している箇所はあるんですが、いったんはおしまい。大事なのは『有限性』だからね…。
・本書の魅力は、もちろん資本主義の射程とその限界を論じるにとどまらず、人文科学のあり方について、様々な角度から語りつくしているところにあります。そこについては、ぼくの動物園学における問題意識と近しい、動物の認知の問題なんかも含まれていますから、そういう視点でも読み返したいところ。
・ただしひとまずは、今期のお勉強として「資本主義の射程と限界」を掲げておきながら、まったく方向性を見出すことのできなかった自分にとっての天啓的な書であったということで、知的興奮を覚えた記録をしておきます。